東日本大震災を経て本格始動したレシート電子化
2020年6月、東芝テックはキャッシュレス、カードレス、そしてレシートレスの“三避”支援を目的に、レシートを電子化するスマートレシートの月額基本料金の無償化に踏み切りました。それを機に中小規模の小売事業者への普及が急速に進みつつあります。
新型コロナ感染症対策の観点からも大きな注目を集めるスマートレシートの仕組みをスマートレシート推進室 室長の長谷川 圭一が思い付いたのは今から10年以上前のことでした。
「当時、普及し始めたスマートフォンでレシートを管理できたら、と考えたことが始まりでした。当時は印紙税法をはじめ制度面の縛りも多く、一度は実用化を諦めかけていました。その考えを改めるきっかけになったのは東日本大震災の経験でした」
製紙工場の被災による紙不足はレジ用ロール紙の需給ひっ迫につながり、その対応に追われました。そうした中で気づいたのが、たとえレジ用ロール紙がなくてもこれまでと変わらぬ経済活動が可能になるスマートレシートの強みでした。また特許申請を済ませていたアイデアへの反応があったことも背中を押す要素の1つでした。
「広告代理店の方からお声がけをいただいたのです。『これはすごい。誰が何を買ったかが分かれば、キャンペーンの考え方そのものが変わりますよ』という言葉を聞き、なるほどそういう意義もあったかとの気づきがありました。これはいけるのでは、と判断したその日から全国行脚の日々が始まりました」
最初に取り組んだのが、実証実験のパートナー探しでした。しかしレシート電子化に協力してくれる企業はなかなか見つかりません。そうした中、スマートレシートを最初に受け入れてくれたのが、以前から懇意にしていたみやぎ生協様でした。
「みやぎ生協様を訪ねた2013年夏の東北は、まだ震災の傷跡がいたるところに残っていました。それだけに先方のご担当の『日本初の試みを仙台から発信することに意義がある』という一言を強く覚えています。同年9月の実証実験開始から翌年11月の本導入までは本当に無我夢中でしたね」
実証実験を通して検証したかったのは、小売店と消費者、そして店舗に商品を卸す事業者の3者がそれぞれ潤う仕組みをどう実現するかという課題でした。
「誰かが利益を総取りするような仕組みでは、普及は難しいと考えたことがその理由です。私はそれを“三方よし”と呼んでいますが、当初は小売事業者の方々にその意義を理解いただくことに苦労しました。自分たちのデータがオープンになることにリスクがあると感じたのですね。その経験から普及への取り組みでは、小売業のメリットを正確にお伝えすることを心掛けています」
スマートレシートの小売業におけるメリットは大きく2点。まずは中小事業者でもスマートフォンを使った販促活動が容易に行える点。もう1つが自社のカードシステムからは見えてこない消費者のライフスタイル全体が見えてくる点です。またここ1、2年でECへの意識が競合から共存に変わりつつあることも普及の追い風になったといいます。
「スマートレシート」とは? 使い方は?

コロナ禍に直面する飲食業支援が直近の課題
2018年、経済産業省とも協力し、東京の町田市で実証実験を行うなど、スマートレシートは行政とタッグを組んだ取り組みも積極的です。
「消費者に受け入れられるには、社会インフラとして意識することなく利用される存在になる必要があります。しかし、それは我々の力だけで実現できることではありません。そのために行政機関との連携は当初から重要視しています。その一例が、一部医薬品を購入した際に所得控除が受けられるセルフメディケーション税制への対応です。花粉症などで市販薬を購入することが多い世帯には、年間数千円が還付されるのですが、そのためにはレシート等を添付した申告が必要です。スマートレシートであれば、対象商品を自動集計し、明細をコンビニで簡単にプリントすることが可能です。企業会計システムとの連携など、社会インフラに求められる機能を今後も積極的に実装していきたいと考えています」
“三方よし”の観点で現在力を入れているのが、コロナ禍で苦境にある飲食事業者の支援です。
「当初、飲食業の方々を巻き込むのは最後だと考えていました。『何を食べた』という情報は、そのままでは価値を生みにくいと考えていたからです。しかし、飲み物と食べ物のマッチングなどは飲料メーカー様には貴重な情報となります。苦境にある飲食事業者をサポートするためにも、今後は、スマートレシートだからこそできる飲食業支援を積極的に進めたいと考えています」
ネットを介して消費者情報を整理・収集するサービスは、すでに数多く登場しています。その中でスマートレシートの最大の強みになるのが、トップシェアを誇るPOSレジをゲートウェイに消費者とつながるサービスである点です。「我々は無限に広がるそのバリューをパートナーの皆様とともにつくり上げていきたいと考えています」と長谷川室長は言葉をまとめました。

スマートレシート推進室
室長 長谷川 圭一
「スマートレシート」の提供サービスについて
紙レシートの代わりにスマホで閲覧できる「電子レシート機能」と、お得な情報を提供できる「おトク機能(販促機能)」があります。
