事業ごみ収集の課題解決にRFIDを活用
事業ごみ収集・運搬を中軸に、資源循環ビジネスを展開する白井グループ株式会社。1933年の創業以来、東京でごみの収集・運搬事業に携わってきた同社は、2000年代以降、廃棄物ビジネスの改革に積極的に取り組んでいます。
循環型社会の実現において、事業ごみ回収の効率化は大きな課題です。東京都の場合、家庭ごみと事業ごみの排出量はほぼ同じですが、事業ごみの回収コストは家庭ごみの2倍以上ともいわれます。東京都の事業ごみ回収を手掛ける白井グループ株式会社 代表取締役の白井徹氏は、理由をこう説明します。
「50社で23区内のごみを回収する家庭ごみと異なり、事業系一般廃棄物の回収については許可業者だけでも都内に500社以上あります。分別回収に対応する関係上、回収車数は膨大ですが、その非効率性がコスト高の最大の理由です。この状況は、CO2排出量という観点でも改善していく必要があると考えています」
事業ごみの回収が高コストになる理由は、顧客別にごみ回収量を把握する必要があるからです。同社の場合、ドライバーが事業所ごとに目視または実際に計量して排出量を集計、伝票に記入していましたが、それはドライバーの大きな負担になっていました。こうした中、同社が着目したのはRFIDの活用でした。
「当社のRFID導入は、現場の業務改善を目的とした若手社員の取り組みからスタートしました。経営者として積極的にその旗振り役を務めてきたつもりですが、実は当初、私自身その意義に気づいていませんでした。それが大きく変わったのは、ユニクロさんのセルフレジを体験したときでした。そのときはじめて、RFIDが我々の業界にとって革新的なイノベーションであることを理解しました。そして、当社のDXが進んだ大きな理由の一つは、業務の部長がシステムに詳しく、デジタル化を率先して進めてくれた事です」
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白井グループは、従来の廃棄物ビジネスを再定義し「サステナブル」なインフラ産業へと変革 -
白井グループ株式会社 代表取締役 白井 徹氏 -
白井グループ株式会社 営業企画部 課長 西沢 潤氏
目視による回収量管理がドライバーの大きな負担に
RFIDに注目したのは、入社9年目の営業企画部 課長の西沢 潤氏。その狙いは、ドライバーの負担軽減にありました。
「当社のドライバーは、1日50~100カ所をまわり、1現場あたり1袋から30袋ほどのごみを回収します。ごみ袋には3種類ある上に、一つの回収場所を複数顧客が共用することも多いため、目視による作業は非常に煩雑で、間違いも多いのが実情でした。こうした中、デジタル化により作業効率と正確性を共に向上させることはできないだろうか、と考えたことがRFIDに注目したきっかけです。2021年4月に以前から取引がある電巧社と東芝テックが共催したRFIDセミナーに参加した際に、大きな可能性を感じ本格的な取り組みをスタートさせました」
RFID導入では、実証実験によるシステムの検証が特に重要です。同社は第一歩として2021年6月に読み取りテストを実施。複数のRFタグとリーダーをテストし、比較的距離が離れていても高精度で読み取れるハンドリーダーUF-3000の採用を決定しました。持ち手(オプション)を取り外せるという特長を持つUF-3000には、もう一つのメリットがあります。それは同社が当初から目指していた、ウェアラブルな運用がスムーズに行える点です。同社は、カメラ用ポーチでUF-3000をドライバーの腰に固定することでウェアラブルな運用を実現しています。
同年8月からは東京メトロ表参道駅エキナカ施設などの回収現場で実証実験を実施。最大で30分かかっていた作業を1/3に短縮するなど、大きな効果が立証されたことで、本格導入に踏み切ることになりました。
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RFタグには、お客さまの情報や可燃ごみ、不燃ごみなどの情報が書き込まれています -
ハンドリーダーUF-3000の持ち手(オプション)を外し、ウェアラブルデバイスとして運用 -
実証実験では、最大で30分かかっていた作業を1/3に短縮することに成功しました
事業ごみ回収のDXにもRFIDが貢献
RFタグは、可燃ごみ、不燃ごみなど、種類別に色分けされたシールとして顧客に配布。ごみ袋を回収する際、ドライバーの腰のリーダーがRFIDを自動で読み取り、同様に腰に装着されたスマホの専用アプリにデータを送信することがソリューションの基本的な流れです。ドライバーがごみを回収車に運ぶ中で、読み取りが自動的に行われることがそのポイントです。
「立ち止まって、社名等を確認する必要なくなったため、ドライバーにはとても好評です。マニフェストへの連携も自動化されたため、バックオフィス業務も非常に効率化しています。また、新型コロナウイルスのリスクが懸念される中、確認作業が不要になったことを歓迎する声も多いです」(西沢氏)
ごみ袋に社名を書き込む必要がなくなったため、お客さまから評価もいただいています。現在同社は、RFID機能を備えたごみ袋を開発中です。実現すれば、顧客の利便性はさらに向上するといいます。
「現時点では、貼り忘れやシールを貼り重ねてしまうことによるエラーも発生しています。お客様先の担当がアルバイトさんということも多く、より分かりやすい仕組みを提供していきたいと考えています」(西沢氏)
正確な回収データがリアルタイムで取得できるRFIDの特長は、事業ごみ回収のDXでも大きな役割を果たすことが期待されています。同社が取り組む、RFIDを活用した資源管理の仕組みは、2021年度の東京都の「事業系廃棄物3Rルート多様化に向けたモデル事業」として採択されていますが、その狙いを白井氏はこう説明します。
「先ほど、革新的イノベーションと言いましたが、RFIDにより回収状況を見える化できることの意義は極めて大きいと考えています。回収ごみをRFIDで管理することで、回収車が今どれだけ回収したかリアルタイムで分かるようになりますが、業界全体がこの仕組みを活用すれば、各社が独自に行ってきた回収車運用の最適化もより容易に図れるようになります。また都市部から離れた場所にある再資源化プラントへの長距離輸送の共同配送最適化にも貢献するでしょう。廃棄物処理業界全体のRFID導入は、未来の循環型社会の実現の大きな一歩になると考えています」
未来の資源循環型の街づくりに向け、同業他社への情報発信も含め、同社はRFID活用に積極的に取り組んでいく考えです。
