市民に支持される地域密着型総合病院
聖隷沼津病院は、病床数246床の中規模総合病院。市立病院、国立病院、県立がんセンターなどがある静岡県東部地域は、医療圏が充実していることでも知られます。
こうした中、同院は地域密着型の病院として市民に寄り添った医療を提供しています。特に小児科は所属医師数も多く、周産期も含め「聖隷の診察券さえあれば大丈夫」といわれるほど、地域の母親から大きな信頼を得ています。
また2014年、症状が安定した患者さんに対して、在宅復帰に向け準備する病棟として25床でスタートした地域包括ケア病棟は、2019年に74床に増床。地域における医療と介護の連携でも大きな役割を果たしています。
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JR沼津駅の南西にある聖隷沼津病院。駅からは公共バスか同院からの送迎車が便利
東芝テックをパートナーに事実に基づく窓口対応を追求
同院の薬剤課の構成員は14名(産休・育休者含む)。調剤や製剤、病棟での服薬指導などを通し、医薬品の適正使用を推進する中で、大きな課題であり続けてきたのが、医薬品の数量が足りないという患者様からの問い合わせへの対応でした。
医薬品が処方箋通りに準備されていることを確認する調剤鑑査は、調剤薬局の重要な業務です。医薬品の渡し漏れに関する問い合わせの中には、悪意を持って指摘しているケースが含まれることも否定できません。薬剤課の牧野 和也氏は、その難しさをこう表現します。
「薬剤師としての20年以上の経験からも、そうした患者様がいることは感じています。その一方で集中力の低下などによる、調剤漏れの可能性もありえるのが現実です。当院では調剤の際に医薬品のマークを処方箋にメモするなどの対応をとってきましたが、メモの証拠能力はさほど高くありません。調剤実績を記録するソリューションも登場していますが、患者様をお待たせすることのないスピーディーな調剤との両立を考えると、当院のニーズに対応する仕組みは見つからないのが実情でした」
「こうした中、同業の知人を介して紹介されたのが、東芝テックの映像検索システムを用いて調剤業務を支援するという、新しい仕組みの実証実験パートナーでした。
「映像データの調剤記録への活用は、作業スピードに影響を与えることなく素早く事実確認を行うことを可能にします。そのアイデアを聞き、最適な仕組みだと直感しました」
2019年にスタートした実証実験では、一つの課題が明らかになりました。それは映像の解像度です。
「調剤の事実確認に利用する場合、『何色の薬か』ではなく『どの薬か』まで視認できる必要があります。その点で当初の仕組みは解像度が不足していました。しかし当方の要望が反映された第二世代では、静止画を拡大すれば、薬剤の種類までクリアに視認できるようになっています」
性能向上の背景には、汎用ネットワークカメラの高解像度化、低コスト化という大きな流れがありました。同院ですでに本運用を開始した第二世代の仕組みは、「窓口業務」「調剤鑑査」などの作業を支援する窓口コミュニケーションレコーダー「Co-Co Reco(ココレコ)」の名称で販売も開始されています。
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一般財団法人 芙蓉協会 聖隷沼津病院 診療技術部薬剤課 薬局長代行 牧野 和也氏 -
実際の調剤の様子。手前の調剤台を含め、最大6名が同時に作業できる -
調剤を行う実際の映像。必要なシーンは、光学ズームによりクリアに拡大できる
調剤業務の可視化は薬剤師の不安解消にも貢献
現在同院では、6名が同時に作業できる調剤台の上に設置された3台のカメラによる映像を、処方箋に印字した患者IDのバーコードで連携することで調剤薬の確認に活用しています。その効果として挙げられるのが、窓口対応の品質向上です。
「やはり調剤ミスの有無が即座に明らかになる点は心強いですね。こちらにミスがあった場合には謝罪から対応できるという点は、患者様との信頼関係の醸成において大きな意味があります。また、悪意のある問い合わせに毅然とした対応が取れるようになったことで精神的な重荷を下ろせました。エビデンスに基づくスムーズな窓口対応の実現は、患者様を待たせることなく調剤を行うことにも貢献しています」
人の命にも関わる薬剤師の仕事では、「あのとき正しく調剤できていたのだろうか」という不安は常につきまといます。映像検索の仕組みは、こうした不安の解消にも大きな役割を果たしていると牧野氏は話します。
「興味深いのは、これまで我々薬剤師が直面していた大きな課題が、POSレジ関連の技術や汎用ネットワークカメラという既存テクノロジーの組み合わせで解決できてしまった点です。現場の声を丹念に拾い上げてくださった東芝テックの方々の尽力に感謝しています。ブレイクスルーを待つことなく、既存技術で解決できる課題は案外多いかもしれませんね」
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調剤台の上に設置された3台のカメラが調剤の様子を余すことなく撮影している -
調剤の際は、薬の種類や数量が記録に残るように作業を進めている -
問い合わせに対して、実際の調剤時の映像を患者様と見ながら説明する